ブラックロックが先週実行した約10億1,000万ドル相当のビットコイン売却は、市場で「世界最大の資産運用会社がついに弱気に転じた」と騒がれた。しかし実態はまったく異なる。
これは iShares Bitcoin Trust(IBIT)の株主による解約(償還)を決済したものに過ぎず、ETFからの資金流出を埋めるため、5日間で毎日約3,000BTC、合計およそ1万5,000BTCが機関投資家向け取引所 Coinbase Prime に預け入れられた。
売り手はブラックロック自身ではなく、ブラックロックの顧客である。
要約
- ブラックロックの10億ドル売却は弱気判断ではなく、IBIT株主の償還を機械的に決済したもの
- 5月18日〜22日の米国現物ビットコインETF全体の流出は12億5,600万ドル、2026年最大の週次流出
- 同じ週にブラックロックはSECに2本目のトークン化ファンドを申請、暗号資産事業はむしろ拡大中
- BTCは7万4,300ドルまで下落後7万7,000ドル台へ反発するも、支え手は長期投資家ではなく短期先物トレーダー
- 米国現物ETFは依然として約130万BTC(流通量の約7%)を保有、構造崩壊ではなく需要冷え込みの局面
「ブラックロックが売った」という見出しの裏側
一見すると、運用資産14兆ドル超を抱える世界最大の資産運用会社がビットコインへの信頼を失ったように映る。しかし、本当の理由ははるかにありふれていて、しかもブラックロック自身よりも、その顧客について多くを物語っている。
ETFの仕組みを思い出したい。
IBITの株式が購入されると、ブラックロックは裏付けとして同額のビットコインを保有する。
投資家が株式を売却(償還)すれば、ブラックロックは対応するビットコインを売却して現金を返す必要がある。これは判断ではなく、機械的なオペレーションだ。
オンチェーン分析企業 Arkhamのデータはまさにそれを示していた。ブラックロックが先週動かした約1万5,000BTCは、すべて償還決済のために Coinbase Primeに毎日入金されている。
売却の意思決定者はブラックロックではなく、IBITの株主たちだった。
「弱気の証拠」とは正反対の行動
ここで、見出しと現実が決定的に乖離する。本当にビットコインを見限った企業なら、できるだけ早くまとめて売り抜けるはずだ。しかしブラックロックは真逆の行動を取った。
- 売却は5日間にわたりほぼ均等に分散
- 一日あたりおよそ2億ドル規模を計画的に処理
- 価格急落を最小化する典型的な償還決済パターン
これは慌てた撤退ではなく、機関投資家向けの教科書通りの執行である。
さらに決定的なのは、IBITが償還処理に追われていたまさに同じ週に、ブラックロックは2本目のトークン化ファンドをSECに申請している事実だ。Larry Fink CEOがかねてから「トークン化は次世代の市場のかたちだ」と公言してきた通り、同社はデジタル資産事業をむしろ拡大している。「ビットコインの天井を打った」と判断する企業が、同じ週に暗号資産事業を拡張する申請を出すだろうか。
ブラックロックは撤退どころか、さらに踏み込んでいる。
売っていたのはブラックロックだけではない
5月18日〜22日の週、米国の現物ビットコインETF11本は合計約12億5,600万ドルの資金流出を記録した。これは6営業日連続の流出の締めくくりで、最大の流出日は5月18日の6億4,864万ドル、続いて19日が3億3,100万ドル、20日が7,050万ドル、21日が1億800万ドル、22日が1億520万ドルとなっている。
| 日付 | ETF全体の純流出額 |
|---|---|
| 5月18日(月) | -6.486億ドル |
| 5月19日(火) | -3.310億ドル |
| 5月20日(水) | -0.705億ドル |
| 5月21日(木) | -1.008億ドル |
| 5月22日(金) | -1.052億ドル |
| 合計 | -12.56億ドル |
このうち、IBITが圧倒的なシェアを占めており、5月19日だけで3.256億ドルの流入を記録した。
週末には米国現物ビットコインETFの総運用資産は約988億ドルにまで縮小し、ビットコイン時価総額の約6.49%相当となっている。
機関投資家全体のリスクオフ
この流出は、特定企業の判断ではなく、機関投資家の総体的なリスク回避を反映したものだ。背景には複数の要因が重なっている。
- 米中貿易摩擦の再燃と中東情勢の地政学リスク
- 米国インフレ率の上昇(3月のCPIは3.3%、2024年5月以来の高水準)
- 米国債利回りの高止まりとFRBの利下げ観測後退(Kevin Warsh新議長は年内据え置きを示唆)
- 企業のビットコイン購入の急減速(5月中旬に4月のピークから最大80%減)
- 4月の高値(8万ドル台突破)後の利益確定売り
ETF市場で最も活発なマーケットメーカーの一つであるジェーン・ストリートは、第1四半期にビットコインETFの保有を約70%削減、ゴールドマン・サックスもポジションを縮小している。
これらは個別の弱気判断ではなく、業界全体の現金化トレンドの一部だ。
わずか1ヶ月前、4月は2026年で最も好調な月であり、現物BTC ETFは約19.7億ドルの資金流入を記録し、累計流入額は570億ドルを突破していた。それが一気に反転し、年初来の純流入額は約5.36億ドルにまで縮小している。
4月にBTCを8万ドル台へ押し上げた投資家たちが、いま利益を確定しているのだ。
なぜBTCは77,000$を維持している?
全員が売っているのに、なぜBTCは7万7,000ドルを保っているのか?
これが本当に興味深い問いである。ブラックロックが売っているなら、誰が買っているのか。
価格は粘っている、しかし支え方が変わっている
価格動向自体が部分的に答えを与えてくれる。週で十数億ドル規模の流出があったにもかかわらず、ビットコインは暴落していない。一時7万4,300ドル付近まで下落したが、月曜には7万7,000ドル台まで回復した。
理由の一つは規模感だ。Strategy 社による直近の2.5万BTC購入ですら、ビットコインの週間取引量の1%未満に過ぎない。10億ドルというのは個人感覚では巨額だが、グローバル市場の規模では十分吸収可能なサイズである。
しかし「支え手」の質が落ちている
ここが警戒ポイントだ。CoinDesk の分析によれば、最近の下値支えの多くは現物の長期投資家ではなく、先物市場の投機筋だった。投機需要は4月にBTCが8万ドルへ近づいた局面でピークを打ち、その後は減少が続いている。一方、長期保有者からの需要は年初来で最速ペースで減少中である。
加えて、Binance のBTC先物市場ではロング/ショート比率が36.7%対63.3%とショートに大きく傾斜しており、トレーダーは「上昇を狩る」というよりも「反発を売る」姿勢に転じている。
一部は逆張りで買っている
それでも完全な投げ売り局面ではない。バンク・オブ・アメリカはIBIT保有を増やしたほか、Bitwise の BITB や ARK の ARKB は流出額がごく小さく、ARKBには5月21日にわずかながら280万ドルの流入もあった。テキサス州は2025年11月にIBITを通じてBTCを公式に購入しており、機関投資家の構造的な裾野は確実に広がっている。
つまり、これは「リスクの縮小」であって「パニック売り」ではない。価格は保たれているが、その下にあるコンビクション(確信)が弱まっている。これが今の市場の本当の姿だ。
BTC反発のカギとなる3つの価格帯
煽情的な見出しを取り除いて全体像を眺めれば、それほどドラマチックな話ではない。ブラックロックはビットコインへの信頼を失っていない、顧客が現金化しただけ、ETFは設計通りに動いた——それだけのことだ。
事実、米国現物ETFは今も約130万BTC(既存供給の約7%)を保有し、2024年1月のローンチ以降の累計純流入額は570億ドル超。機関投資家が築いた構造インフラは依然として健在である。
注視すべき水準
| 水準 | 意味合い |
|---|---|
| 75,000ドル | 直近防衛されたサポート。割れると7万ドル割れも視野 |
| 78,932ドル | 短期EMA・直近ブレイクアウト水準 |
| 79,000〜80,000ドル帯 | 月単位で抜けられなかった天井。ここを超えれば9万ドルが視界に |
| 90,000ドル | Bitwise の供給ショック論の起点 |
| 126,000ドル | 2025年10月のATH(現値から約62%上) |
結局のところ、ETFフロー次第
技術的には、ビットコインはすでに2025年10月の史上最高値12万6,198ドルから約38.5%下落しており、年初来でも約12%安。今年に入って最弱の主要資産クラスの一つだ。
しかし、ここからの方向性を決めるのはブラックロックの行動ではなく、ブラックロックの顧客が再び買い手として戻ってくるかどうかである。具体的には次の3条件が鍵を握る。
- ETF流入が月10億ドル以上に回復するか
- 取引所のBTC残高(現在221万BTC、2017年以来の低水準)がさらに減るか
- 長期保有者の供給量が1,450万BTC以上で維持されるか
この3条件が揃えば、Bitwise の言う「供給ショック」論が現実味を帯び、9万ドルがレジスタンスではなくサポートに転じる展開もありえる。
結論
売りはあった。しかしそれは恐怖からの逃避ではなく、投資家の冷静なリスク縮小だった。ブラックロック自身は売るどころか、トークン化ファンドの追加申請という形でデジタル資産へのコミットを深めている。
これから何が起きるかは、ブラックロックではなく、顧客がいつ再び買い手に回るかにかかっている。それまでは、7万5,000ドルが防衛線、7万9,000〜8万ドルが奪還すべきラインだ。












