8日の米国市場で、通信株は勝って引けた。ベライゾン・コミュニケーションズ(VZ)は1.27%高、AT&T(T)は1.63%高、Tモバイル US(TMUS)は2.18%高である。ところが引けの17分後、米東部時間16時17分に1本のリリースが流れた。スペースXが全米規模の800MHz帯の周波数免許を買う、という内容だ。時間外取引では3社がそろって6%前後売られた。高配当株として米国株の口座に入れている個人投資家は、日本時間9日の朝に画面を見て目を疑ったはずである。
しかもベライゾンは、米国時間9日が配当の権利落ち日に当たる。値下がりと配当落ちが同じ日に重なる。筆者の結論を先に書いておく。ベライゾンは配当落ち後の投げを拾う側、Tモバイルは戻りを売る側に立つ。以下、テープと水準からその理由を説明する。
引け後のテープ:17分後のリリースで値幅がひっくり返った
売り手が動いたのは、投資会社グレイン・マネジメントのプレスリリースだった。全米で持つ800MHz帯の免許をすべてスペースXに売る最終契約を結んだ、とある。米連邦通信委員会(FCC)の承認が条件で、金額は開示されていない。対象は上り下り合わせて最大14MHz幅の帯域である。グレインはこの免許を2026年8月にTモバイルから取得したばかりだった。現金に600MHz帯の免許を加えた交換で手に入れている。
スペースX側は、この帯域が衛星携帯サービス「スターリンク・モバイル」を米国の主要な携帯会社に押し上げるために残っていた技術上の穴を埋める、と説明した。マスク氏はこの取得を「周波数のパズルの最後の重要なピース」と呼んだと報じられている。低い周波数の電波は建物の中に届きやすい。屋内で圏外になりがちという衛星通信の弱点を埋めるわけである。
8日終値から時間外の最終取引までの騰落率(米東部時間20時時点)
読み方:通常取引では通信3社とも上げて引けたが、16時17分のリリースのあと時間外で6%前後下げた。時間外の安値は8日終値比でAT&Tが8.40%安、Tモバイルが7.88%安、ベライゾンが7.42%安。出所:米ナスダックの終値と時間外取引データから本誌計算。時間外は出来高が薄い。
下げのピークは早かった。時間外の安値はAT&Tが16時44分、ベライゾンが16時45分、Tモバイルが16時49分である。リリースから30分足らずで売りが出尽くし、その後は少し戻した。出来高はAT&Tが約314万株、ベライゾンが約455万株で、通常の取引時間に比べれば薄い商いだ。薄い板で値が飛んだ下げであり、まだ本番の値段ではない。本番は日本時間9日22時30分の寄り付きである。
需給の解剖:配当落ちを差し引くと下げは小さく見える
ここが日本の個人投資家にとって一番大事なところだ。ベライゾンの四半期配当は1株70.75セントで、記録日は10月9日、支払日は11月2日である。米国の受け渡しは約定の翌営業日なので、9日の取引からは配当の権利が付かない。理屈の上では、寄り付きで70.75セント分が株価から抜ける。
8日の終値46.35ドルから配当分を引くと45.64ドルになる。時間外最後の43.64ドルと比べた下げは約4.4%で、見出しの「6%安」より小さい。逆に言えば、9日の寄りで43ドル台が付いても、そこから配当を差し引いたあとの下げは見た目ほど大きくない。AT&Tも同じ構図だ。四半期配当は27.75セントで、記録日は12日、権利落ちは9日とされる。12日の月曜が米国の祝日(コロンブス・デー)に当たるためとみられる。
円で数えるとこうなる。ベライゾン100株を持つ人の場合、8日の終値から時間外最後の値までの下げは271ドルだ。8日の欧州中央銀行の参照レート(1ドル=158円28銭)で換算すると約4万2,900円になる。同じ100株が受け取る四半期配当は税引き前で70.75ドル、約1万1,200円である。一晩の時間外の値下がりが、配当のおよそ3.8回分に当たる。高配当株を「利回りで持つ」人がいちばん嫌う形だ。ただし、これは時間外の値段で付いた含み損にすぎない。
なお、年間配当2.83ドルで計算した利回りは、8日の終値で6.11%、時間外最後の値なら6.48%になる。利回りに惹かれて買う人にとっては、値下がりで利回りが上がった状態である。
日柄:スペースXが通信株を叩いたのは今年3度目
今回が初めてではない。6月29日には、スペースXが消費者向けの携帯サービスを検討していると報じられた。その日の終値で、ベライゾンは5.24%安、AT&Tは3.96%安、Tモバイルは4.77%安だった。8月5日には、スペースXの初決算の説明会で地上網も整備すると表明した。このときは3社とも1〜2%台の下げで済んでいる。
その後の値動きで3社の差がはっきり出た。ベライゾンは6月29日の終値44.10ドルから9月15日の51.45ドルまで16.7%戻し、年初来でも8日終値まで13.8%高である。AT&Tは年初からほぼ横ばいだ。Tモバイルは年初来15.6%安で、10月1日には終値で直近1年の最安値161.73ドルを付けていた。時間外の159.99ドルはこれを下回っている。同じ見出しで売られても、戻る銘柄と戻らない銘柄が分かれる。見るべきは見出しより水準のほうだ。
もう一つの材料がある。3社は10月初めに、衛星とスマートフォンの直接通信を進める合弁会社を正式に立ち上げたばかりだった。各社の既存の衛星提携は続き、Tモバイルはスターリンク、AT&TはASTスペースモバイル(ASTS)と組んでいる。そのスターリンクを使うTモバイルにとっては、提携先が自前の帯域を持つ競合に変わりつつある。ASTスペースモバイルも8日の本取引で6.13%安、時間外でさらに3.89%安となった。同社は8月、この800MHz帯の買い手候補の1社と報じられていた。取り損ねた側の失望売りとみてよい。
水準の地図:ベライゾンの44ドルと43ドル
ベライゾン(VZ)の水準の地図
読み方:時間外の最終取引は43.64ドルで、6月29日の終値44.10ドルを下回った。配当(70.75セント)を差し引いた8日終値は45.64ドル。筆者は42.91ドルを終値で割ったら撤退する。出所:米ナスダック、stockanalysis.comの日足終値。
地図の読み方はこうだ。6月の「スペースX・ショック」の終値44.10ドルを、時間外ではすでに割り込んだ。その下、時間外の安値42.91ドルまでが投げの受け皿になる。ここを終値で割ると、次の目立つ節は1年前、2025年10月23日の終値38.40ドルまでない。上は、配当を差し引いた前日終値の45.64ドルが最初の戻りの目安だ。ここまで戻れば、今回の下げは配当落ちの分しか残らない。
筆者の見立て:ベライゾンは拾う、Tモバイルは戻り売り
強気に傾く理由は3つある。第一に、取引はまだ成立していない。FCCの承認が条件で、承認の時期も示されていない。第二に、スペースXの次世代衛星によるサービスは2027年からの話である。日本でスターリンクと組むKDDIも、高速データ通信と音声通話の提供は「2027年内を目指す」としている。来週の解約が増える話ではない。第三に、6月の同じ形の下げは、ベライゾンでは3カ月足らずで全部戻った。時間外の投げは寄り付きで一度出尽くすことが多い。
一方、Tモバイルは話が別だ。1年来の安値圏にいるところへ、提携先が競合になる材料が重なった。戻り売りが待ち構えている銘柄を、時間外の安値だけを根拠に買う理由はない。筆者は前日終値171.31ドルまでの戻りは売り場とみる。
逆になったら:撤退線
ベライゾンの買いは、時間外の安値42.91ドルを終値で割ったら撤退する。そこを割るのは、配当落ちを差し引いても売りが止まらないということだ。その場合は「一晩の投げ」ではなく、評価の切り下げが始まったと読む。Tモバイルの戻り売りは、前日終値171.31ドルを終値で上抜いたら買い戻す。
東京の通信株は今のところ静かだ。9日午前11時27分の時点で、KDDIは0.10%高、ソフトバンクは0.37%高、NTTは0.52%高、楽天グループは1.40%高だった。米国の話は米国の話として受け止めている。国内の携帯会社に直接響く材料ではない、というのが筆者の見方でもある。
今夜の監視リスト
| 日本時間 | 見るもの | 水準・論点 |
|---|---|---|
| 9日22:30 | ベライゾンの寄り付き | 配当落ち後で45.64ドル。44.10ドルを回復できるか、42.91ドルを割るか |
| 9日22:30 | Tモバイルの寄り付き | 1年来の安値161.73ドル(終値)の下で始まるか |
| 9日22:30 | AT&T | 配当落ち(27.75セント)後で24.59ドル。時間外の安値は22.78ドル |
| 9日夜 | スペースX(SPCX) | 8日の本取引は4.19%安の160.57ドル、時間外は2.32%高の164.30ドル |
| 今後 | FCCの審査 | 800MHz帯の譲渡の承認。時期は未定 |
スペースX株そのものの値動きはスペースX株、2日で15.5%高の171ドルで、スターリンクの収益構造はスペースX初決算ルポで整理した。米国の高配当株を新NISAで持つ場合の税金と為替の考え方はNISAで高配当株を買うなら日本株か米国株かを参照してほしい。
主な参照
- 800MHz帯の売却の最終契約(2026年10月8日16時17分、米東部時間)/グレイン・マネジメント(PR Newswire)
- スペースXの説明、マスク氏の発言、時間外の値動きの報道/Stocktwits、CNBC
- 8日の終値と時間外取引(最終取引・安値と時刻・出来高)/米ナスダック
- ASTスペースモバイルとスペースXがグレインの帯域に関心(2026年8月の報道)/ブルームバーグ
- 過去1年の日足終値(6月29日、8月5日、9月15日、10月1日など)/stockanalysis.com
- ベライゾンの配当(1株70.75セント、10月9日記録、11月2日支払い)/ベライゾン
- AT&Tの配当(1株27.75セント、10月12日記録、11月2日支払い)/AT&T、権利落ち日/MarketBeat
- 米通信3社の衛星合弁会社の正式発足/Light Reading、SatNews
- KDDIの「Starlink Mobile V2」契約と2027年内の提供目標/BUSINESS NETWORK
- 東京市場の通信株の株価(9日午前)/株探
- アイキャッチ画像:JeepersMedia「Cell Phone Tower Sunset」(CC BY 2.0)
- ドル円の参照レート(10月8日)/欧州中央銀行(Frankfurter経由)
データ基準日:米国株は2026年10月8日の終値と、同日の時間外取引(米東部時間20時時点の最終取引)。時間外の値段は出来高が薄く、9日の通常取引の値段とは大きく異なることがある。東京市場の株価は10月9日午前11時27分時点の取引時間中の値で、終値ではない。円換算は8日の欧州中央銀行の参照レートを使った。取引の金額は開示されていない。マスク氏の発言は報道にもとづく。AT&Tの権利落ち日は情報ベンダーの表示にもとづくもので、会社の発表は記録日のみを示している。配当落ち後の価格は本誌の計算である。水準と撤退線は筆者の見方であり、将来の株価を保証しない。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断はご自身の責任において行っていただきたい。
















