Bank of America Global Research(BofA)が、米ドル強気の見方を2026年第3四半期(7〜9月)まで延長した。長く続いたレンジを下抜け、ユーロドル(EUR/USD)が1.12方向へ下落する可能性を指摘している。背景にあるのは、米国経済の相対的な強さ、FRBの追加利上げ観測、そして米欧2年金利差の再拡大だ。
BofAは5月時点でユーロドル売りを推奨しており、今回もプットスプレッドを用いたショート戦略を維持している。結論から言えば、ユーロドルの1.12到達は十分に現実的なシナリオだ。ただしドル高材料の一部はすでに織り込まれており、今後は米インフレ、FRBの姿勢、ユーロ圏景気の悪化度合いが焦点となる。本稿では2026年6月25日時点の最新水準をもとに、その道筋を整理する。
要点(2026年6月25日時点)
・EUR/USDはおよそ1.137。年初来高値1.20から1.14近辺まで反落。
・ECBは6月11日に2023年以来の利上げ。FRBは6月17日にドット(金利見通し)を「利上げ」方向へ転換。
・米欧の2年金利差が約30bp拡大すれば、ユーロドルは約1.2%下押しされる試算。
・BofAはQ3に1.12を予想し、プットスプレッドで売りを継続。
BofAのユーロドル弱気シナリオ
BofAの主張はシンプルだ。米国の成長率がユーロ圏を上回り、FRBが年内に追加利上げへ動くなら、米ドルの優位性はさらに強まりやすい。同社は強気ドルの前提を「米国の成長優位と金利差の開き」と説明し、そのギャップは第2四半期初めから縮小したものの、なお走る余地が残るとみる。基本シナリオは年内FRB3回利上げだ。
核心は米欧2年金利差にある。BofAの金利チームは、2026年第3四半期までにこの金利差が約30bp拡大すると予想する。過去の感応度(ベータ)に当てはめると、これはユーロドルを約1.2%押し下げる要因となる。足元の水準から計算すれば、1.12というターゲットは過度に極端な予想ではない。ただし為替はオーバーシュートしやすく、下振れ余地も意識されている。
BofAが示すように、米国の成長サプライズと2年金利差の対他国優位は、第2四半期初めのピークからいったん縮小しつつも、なおプラス圏にとどまっている(出所:BofA Global Research)。この「縮小したが、なお走る余地がある」という構図こそ、同社がドル高見通しを取り下げず、ユーロドルの売りを維持する根拠だ。
プットスプレッドとは 権利行使価格の高いプット(売る権利)を買い、行使価格の低いプットを売る組み合わせ。下落で利益が出る一方、利益は下限の行使価格で頭打ちになる代わりにコストを抑えられる。例えば「1.14プット買い/1.12プット売り」なら、1.12までの下げを効率的に狙う形となり、BofAが1.12をターゲットに据えていることと整合する。
| 材料 | ユーロドルへの意味 | 方向感 |
|---|---|---|
| FRBの追加利上げ観測 | 米短期金利が上昇し、ドル保有の魅力が高まる | ユーロドル下落 |
| 米欧2年金利差の拡大 | 短期金利差がドル優位に傾く | ユーロドル下落 |
| 米国の成長優位 | 資金が相対的に強い米国市場へ向かいやすい | ドル高要因 |
| ユーロ圏の景気減速 | ECBが積極的に利上げを続けにくい | ユーロ安要因 |
| レンジ下抜けリスク | ストップロスや短期筋の売りが加速しやすい | 下方向へのオーバーシュート |
チャートで見る1.12への道筋
現在のユーロドル水準とBofAの1.12目標を、主要な節目で結んだイメージが以下だ。1.14を起点に、下抜け確認ゾーンの1.13、そして第3四半期ターゲットの1.12へと、金利差拡大シナリオに沿って段階的に切り下がる構図を示している。
米欧金融政策の温度差 — そろってタカ派でも中身は違う
2026年の為替を理解する鍵は中東情勢にある。イランを巡る紛争でエネルギー価格が押し上げられ、米国・ユーロ圏の双方でインフレが再加速した。結果として両中銀がそろって引き締めへ傾くという、近年では珍しい構図が生まれている。だがFRBとECBでは、利上げの「中身」がまるで違う。
FRB — 据え置きでもドットは「利上げ」へ
FRBは6月17日、政策金利を3.50〜3.75%に据え置いた。ケビン・ウォーシュ新議長の初会合で、決定は12対0の全会一致だった。注目はドットプロットだ。3月時点では年内利下げが中心シナリオだったが、今回は中心が「利上げ」へ反転。18人中17人がインフレリスクを上振れ方向と判断した。声明でも経済活動が堅調に拡大していると説明している。
裏づけとなる指標も強い。米国の1〜3月期実質GDPは確報値で前期比年率2.1%へ上方修正された。FRBが重視するPCE価格指数は3月の前年比3.5%から4月には3.8%へ加速し、FRBは6月会合で2026年のインフレ見通しをヘッドライン3.6%・コア3.3%へ引き上げた。景気が耐えている一方でインフレが高いため、早期利下げの余地は乏しい。市場は再び「次の一手は利下げではなく利上げかもしれない」と考え始めている。
ECB — 利上げしてもユーロ高につながらない
ECBも6月11日、主要3金利を25bp引き上げた。預金ファシリティ金利は2.25%、主要リファイナンス金利は2.40%、限界貸出金利は2.65%となり(6月17日適用)、利上げは2023年以来となる。通常なら利上げは通貨高要因だが、今回は素直なユーロ買い材料になりにくい。背景が「強い景気」ではなく「エネルギー高によるインフレ圧力」だからだ。
ECBの6月時点のスタッフ見通しでは、2026年のユーロ圏成長率はわずか0.8%、インフレ率は平均3.0%とされた。成長見通しは3月から下方修正されており、米国と比べて景気の弱さが際立つ。つまりECBはインフレ対応で利上げせざるを得ない一方、景気が脆弱なため、FRBほど強いタカ派姿勢を長く維持しにくい。市場はこの「利上げの持続力の差」を見透かしている。
| 比較項目 | 米国 | ユーロ圏 | 為替への示唆 |
|---|---|---|---|
| 成長率(2026年) | 相対的に堅調(Q1は年率2.1%) | 弱い(ECB見通し0.8%) | ドル優位 |
| インフレ | PCEが再加速(4月3.8%) | エネルギー高で上振れ(3.0%) | 両地域で利上げ圧力 |
| 中銀の余地 | 景気が耐えれば追加利上げ可能 | 景気悪化で制約が大きい | FRBの方がタカ派化しやすい |
| 市場の注目点 | 追加利上げの回数 | 利上げ継続の限界 | 米欧金利差が焦点 |
テクニカル — 重要水準と分水嶺
短期的には、1.14を明確に下回るかどうかが最初の焦点だ。すでにユーロドルは1.14近辺まで下落しており、この水準を回復できなければ1.13、さらに1.12が意識されやすい。上値では1.20が三尊型の抵抗となっており、各高値が1.20を超えられないまま失速してきた。とりわけ1.12は200日移動平均と2025年5月の押し目安値が重なる分水嶺で、明確に下抜ければ中期トレンドは中立〜弱気へ傾く。BofAの1.12ターゲットは、このテクニカルの節目とも重なる。
| 水準 | 意味 |
|---|---|
| 1.20 | 年初来高値。三尊型の上値抵抗 |
| 1.16 | 戻り売りが出やすいゾーン。上抜けると弱気シナリオは後退 |
| 1.14 | 足元の重要サポート。下抜けなら弱気継続 |
| 1.13 | レンジ下抜け確認ゾーン |
| 1.12 | BofAの第3四半期ターゲット。200日線+2025年5月安値 |
| 1.12割れ | ストップロスを巻き込んだオーバーシュート領域 |
市場予想は割れている — 主要機関の見通し
もっとも、ユーロドルの先行きについて市場の見方は大きく割れている。BofAやシティが弱気(ドル高)に傾く一方、ゴールドマン・サックスやドイツ銀行は年末に1.25を見込む強気ユーロ派だ。どちらに転ぶかは、結局「FRBが次に何をするか」に懸かっている。
| 機関 | 方向性 | 目標水準 | コメント |
|---|---|---|---|
| BofA | ドル高(弱気ユーロ) | Q3に1.12 | 5月に売り推奨。プットスプレッドで継続 |
| シティ | ドル高 | 2026年に約1.10 | Q3に1.10で底打ちの可能性 |
| ゴールドマン・サックス | ドル安(強気ユーロ) | 年末に約1.25 | ドル安継続を想定 |
| ドイツ銀行 | ドル安 | 2026年末に1.25 | 独の財政出動・世界成長の回復が支え |
| ケンブリッジ・カレンシーズ | レンジ | 1.13〜1.21 | 両中銀タカ派で方向感に乏しい |
今後の3つのシナリオ
ユーロドルの下落シナリオは有力だが、一方向の相場と決めつけるべきではない。特に米インフレが急速に鈍化すれば、FRBの追加利上げ観測は後退し、ドル高の勢いも弱まりやすい。鍵を握るのは中東情勢と、それを受けた米欧の金利差だ。
| シナリオ | きっかけ | ユーロドルへの影響 |
|---|---|---|
| BofA基本シナリオ | FRB利上げ観測、米欧金利差拡大、ユーロ圏景気の低迷 | 1.12方向へ下落 |
| 下方向オーバーシュート | 1.13割れでストップロスと短期筋の売りが加速 | 一時的に1.12を下回る可能性 |
| 反発シナリオ | 米インフレ鈍化、FRB利上げ観測の後退 | 1.15〜1.16方向へ戻す可能性 |
| ユーロ回復シナリオ | ユーロ圏指標の改善、ECBの追加利上げ観測 | レンジ相場に戻る可能性 |
下落シナリオのリスク要因
BofAの1.12予想には説得力があるが、最大のリスクは米インフレの急低下だ。今回のインフレ上振れにはエネルギー価格の影響が含まれている。原油価格が落ち着き、コアインフレも鈍化すれば、市場はFRBの追加利上げを織り込みにくくなる。
また、ユーロ圏の景気が想定以上に底堅い場合も、ユーロ売りは続きにくい。足元の市場はドル高方向に傾きつつあるため、米指標が弱かった場合にはショートカバー(買い戻し)による急反発も起こり得る。ポジションが一方向に偏るほど、逆方向の値動きは荒くなりやすい。
まとめ — 1.12は現実的、ただし米指標次第
BofAのユーロドル1.12予想は、現在のマクロ環境と整合的だ。米国は成長が相対的に強く、インフレも高止まりしている。FRBが追加利上げに動く、または市場がその可能性を強く織り込むなら、ドル高は続きやすい。
一方、ユーロ圏はインフレ圧力があるにもかかわらず成長見通しが弱い。ECBは利上げしているが、それはユーロを積極的に買う理由というより、景気に負担をかける要因として受け止められやすい。したがってユーロドルは、1.14を明確に回復できない限り、1.13、そして1.12を試す展開が続きやすい。逆に1.16台へ戻れば、BofAの弱気シナリオはいったん再評価が必要となる。
よくある質問(FAQ)
ユーロドルはなぜ下落しているのか?
主な理由は、米国の金利上昇観測と米欧の成長格差だ。米国ではインフレが高止まりし、FRBの追加利上げ観測が残っている。一方、ユーロ圏は景気見通しが弱く、ECBが利上げしてもユーロ買いにつながりにくい。
ユーロドルは1.12まで下がる可能性があるのか?
可能性はある。BofAは2026年第3四半期にユーロドルが1.12へ下落すると予想している。特に米欧2年金利差がさらにドル優位へ拡大すれば、1.12は現実的な下値目標となる。
FRBの利上げはユーロドルにどう影響するのか?
FRBが利上げすれば、米ドル建て資産の利回りが上がり、ドル買いが入りやすくなる。ユーロ側で同程度の金利上昇がなければ、ユーロドルには下落圧力がかかる。
ECBも利上げしているのに、なぜユーロは弱いのか?
ECBの利上げは、強い景気を背景にしたものではなく、主にインフレ対応のためだ。ユーロ圏の成長率見通しは0.8%と低く、利上げが景気をさらに圧迫しかねないため、ユーロ買い材料としては限定的になりやすい。
ユーロドルの下落シナリオが崩れる水準はどこか?
目安は1.16台への回復だ。1.14割れが続く限り弱気シナリオは維持されやすいが、1.16を明確に上回ると、ドル高・ユーロ安の勢いは弱まったと判断されやすい。
免責事項 本記事は2026年6月25日時点の公開情報に基づく相場分析であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。為替レートや金利見通しは急変する可能性があり、記載した数値・予想は今後変動しうる。投資判断は最新の情報を確認のうえ、自己責任で行うこと。













